献奏

己の内に在る凶暴性、野獣、
樹海のような虚勢と警戒
うつろでしかない
此の浮世は

其のような現世ですから
美しくなければ生きている意味など在りません

何度も同じようなことばかり囁かれる

煙草が切れました

天使と悪魔

血を血で洗うことの終末は安易に想像ができましょう。
絵を描きます。
詩を書きます。
果実の部屋でお逢いしましょう。
此の散文学、如何いたしましょう。
其処の光る指環で喉笛を…。

身を震わせる鴉

私なら此処です

此処にずっと居ります

アルコヲルを開ける音

ジャズピアノ奏者

私なら此処です

その手で屠っておくんなまし

春夏秋冬花鳥風月

緑萌える菜の花畑に

雛罌粟のささめごと

緋の紅葉を踏み躙り

六花凍てつき垂れる

流星羣

思慮深くほどけていく夜に

すこしずつ秋の涼しさ


はやく
湯気が眼に見えてゆらめくくらい
寒くならないかしら

甘いカラメルのような
体温と
星空と

短歌

痛みさえ
愛しく思ふ
生命の強さ
染まる切先
屠るる血汐

生活

此処のウィンナ珈琲は仄かに甘くて安心する味がする。

不安定になってしまったときのことは平常時はあまりよく覚えていない。
自分の中に違う人間が巣食っているような気がする。
帷が落ち、訪れる。

煙草はもう吸えなくなったが、誰かが吸っている香を嗅ぐのは好きだ。

「只、生きているだけでいい」
そう云って欲しかった。
それだけなのに。

翡翠

汝の身のまわりの人々、境遇は決して汝の装飾品ではない。
汝の進むべき道を灯す宝玉なのだ。
鎧で身を固め、付け焼き刃で戦っていては前には進めぬ。
永久とこしえに。

詭弁

昔は眠ることが大好きで周りからは「眠り姫」なんて呼ばれていた。
今は眠ることが嫌い。嫌いというかおそろしい。
朝起きるといつの間にか膝に痣ができている。
夢の中の自分のほうが能弁だ。

いろいろなことがおそろしくなった。
歳をとるということ。

高校時代に母を亡くした友人のことを思い出した。
大学も一緒で、もう駄目かもと思っていたところをわたしに誘ってもらえて、助かったと云っていた。

わたしはいったいこれまで何人の心を潰してきたんだろう。


Claíomh Solais

「いつか必ず死ぬ」
その事実がわたしを強くする

生きていると忘れていくばかりね
死ぬ直前に総て思い出せるかしら

眼の前も眩むで視えなくなる
頼れるのは己だけ 己だけ

他人様に何と云われようと
貫き通しなさい
グングニルの刃は
貴女が思っているよりも靭く妖しい

Lunae Rubrae Rosa

紅い月の薔薇

空洞

我等人間様
他人の言葉を借りてしかもの云えぬ侘びしさよ
主観でしか語れぬ虚しさよ
意味の解らぬまま言の葉を操るも同じ
まじくなって徒然とて
其等美しく在りませぬ
美しくなければ生きている意味など失い
美しく死んだほうが増しよ
美しくお終い

仕合せって如何

儚いものよ
藍微塵は散る
六花は熔ける

貴方にも神がお在りでせう

「神」とまでは云わずとも
心の支え棒の様な
尊き存在

哀しく為ったら香水を纏ふの
止め処なく為ったら本を読むの
希望が視えぬ時は黒い瞳を視るの

龍乃夢

墜落する飛行船は
炎を吹きながら飛ぶ火焔龍
はたまた火の中に還らんとする不死鳥 鳳凰
それとも那由多宇宙から齎された隕石か

眼を変えれば
世界も変わる

amber

深く深く 琥珀のような車内
頰紅を塗したような空
窓の中の窓
都会の住処
人々の営み
幾つもの人生と
わたしの人生を
想像しながら
窓を眺めていた

疾る

黄金色の濃縮された時間

不祝儀

想像力の無い奴等
心臓の音色を聴け
血飛沫の色を視よ
痛みに想い馳せよ

游泳池の底で緋色が滲んだの
身体の真ん中を機関銃で撃ち抜かれたの
其の様な夢ばかりみているわ

完璧です
此れは完全無欠で潔癖で純白
精巧に造られたサナトリウム

卯月には海に還りませう
皐月には花の名を教えておくれよ

時計の針を折って
松明にする それとも
アマレットをかき混ぜる為のマドラーにして?

夜は重くじっとりと全身にのしかかる
闇は怖くなどない
夜が怖いのです
暁が存在しないような気がして

息を一本
すうっと吸って
煙草に焔をつけて